氏 名 英語通訳翻訳A子 |
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【経験業種】: 金融・証券・生命保険・流通・テクノロジー全般・IT・政治経済・報道・企業監査・エンターテインメント・ゲームソフト・情報通信・医療機器・医療(症例レポート・症例セミナー等)・建設不動産・観光振興・食品・外食産業・政府関連・農業・臨床・オルタナティブメディスン・超VIPへの取材 民放でのVTR編集や同時通訳その他 現在、国際会議やテクノロジー関連、投資家への説明会、学術会議、テレビ同時中継等の同時通訳、外資系の社内会議、商談、一般通訳、翻訳など幅広く活躍中。 Q1.通訳の仕事はどのようにして始めたのですか? 『大学時代に先輩から引き継いだアルバイトで、香港からの洋服バイヤーの方のアテンドをする仕事でした。そのあと別で外国人による日本国内での映画のロケに同行する仕事もしましたが、当時は文学研究や編集者の仕事がしたいと思っており、通訳を職業にするつもりはありませんでした。 他に在学中にNPOのボランティアで通訳をしたりもしましたが、これは参加者の皆様の熱意が凄くて大変やりがいがあり、一生の思い出です。 実際に仕事として始めたは、大学院の修士課程の後でした。ビジネスマンに随行したり観光地をガイドしたりする仕事も兼ねながら徐々に仕事の幅を広げていき、ある時期、エンターテインメントやIT関連の社内通訳も経験しました。 1人のボスについて、社内・社外の色々な方とお会いする通訳は責任も体力的にも大変でしたが、そういった自分の体力の限界を知る(1日何時間までだったら出来る、とか・・)様々な種類の会議の場数を踏んで、色々な状況に対処する力がつきました』 Q2.通訳(同時通訳)をするきっかけは何だったのですか? 『やはり先輩から紹介していただいたアルバイトや、ご縁のあった方や依頼元から紹介していただいたお仕事などを通してそういう方向に流れていったという感じです。 意識的な部分としては、同時通訳を引き受けられるまでには教室にも通って相当、意識的に努力しました。 これまで色々な方からチャンスを頂いたり、励ましていただいたからこそ続けてこられただけで、自分の強固な目標があって今日の自分が実現できた、というわけでは必ずしもないように思います・・・』 Q3.同時通訳の力はどのように身につけたのですか? 『スクールの同通コースに通いました。あとは自宅でCNNを録音したものに、自分で同通の練習をして吹き込んだテープを聞き返したりして練習しました、これは今も続けています』 |
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Q4.わかりやすい通訳にするコツとは何でしょうか? 『「要点の整理」「相手を意識しながら意思疎通」でしょうか。勝手に大幅にはしょる行為は許されませんが、話者のスピーチが100語あるとして、100語全部同じ重点があることはありえません。逐次の場合は聴衆が通訳し終わるのを待っていますし、話者が1分のところ通訳者が3-4分も使っているのは効率が良いとは言えません。 一般的に人が会議の場で、考えながら発言する自然な話には重複部分が出てきますので、メモ取りをしながらまずは情報を整理して、ある程度、冗長さをなくし、ロジックをきっちりと押さえます(因果関係なのか順接、逆説なのか等)。このあたりは通訳学校の厳しい授業に感謝です また、小学校の頃から高校大学まで、国語や古文・漢文などもしっかりやっておいて良かった、厳しく教えていただいてよかった、と思う部分です。日英や日仏など、日本語と外国語の通訳を目指そうか考えるにあたって、「子どもの頃、国語が好きだったかどうか」は重要な分岐点かもしれません。 仕事が一段落している時期に、むさぼるように日本語の本を大量に読むときがあります。脳がインプットを欲しているのかと思って、手当たりしだい色んな分野の本を買ったり借りてきたりして読みます。最近は世界の古典文学の素晴らしさを再発見して全集読みしています。 情報を取り入れつつロジックを組み立てていくのはコンピュータのプログラミングに近い感覚で、それを瞬時に行うので脳には確かに負担はかかります。 けれど通訳者を介して「相手を理解したい、伝えたい、聴きたい」という参加者全員、交渉相手双方の強い意志に支えられて業務を遂行できていることを常に意識して感謝しています。 精神論的ではありますが、通訳をしていると没頭しがちですが、自分ひとりに負荷を背負い込んで仕事をしているような感覚は持たないほうがいいです。「私がやるから任せてください」では他人の協力や情報を拒んでいる状態で良くないのです。 ちゃんと準備してきていても、周りの皆さんに「わからないことだらけです、皆さんは分野の専門家でいらっしゃる、お願いします、助けてくださいね」と心底、謙虚でオープンでいるとうまくいきます。極端に言えば、ある意味プロとしての気負いとか自負心を捨て、伝達のためのツール=道具になりきることが重要です。 会議に同席する場合でもブースに入っていても、下を向いたりメモばかり見て小さな声でぶつぶつ言う通訳は皆さんに眠気を催させます。よく通る声で明確に発音して聴衆に負担をかけないようにします。 英語日本語両方で、テレビやラジオなどで、ナレーターの方やアナウンサーの方の話し方、アクセントの付け方などを聞いて、時々なぞってみるだけでも、とても勉強になります。』 Q5.もっとも得意とする通訳は何ですか? 『回数を重ねているので、やはりIT関連や経営財務一般、IR通訳、企業の会議や訪問などでしょうか。他にも環境やテクノロジー関連、投資セミナー、教育、環境関連など国際会議やフォーラムの同時通訳もやっています。 メディアでのお仕事も多いので時事関連や英語圏の社会や文化歴史に関する話題にもそれなりに詳しいほうかもしれません。 しかし好評をいただいたのは、音楽やエンターテインメント関連、それにイタリアの建築家の方による歴史的建造物に関する講演の通訳というのもありました。やはり文化理科系にまたがるような貴重な講演で興味深いテーマということで事前の下調べに力が入るのですね』 Q6.そのような仕事の中で大変なところはどのようなことですか? 『下調べ、事前準備に尽きます。それから当日までに資料がいただけるかどうか、講演者がちゃんと来日してくれるかどうか。 当日にプログラムが大幅入れ替えとか、機材の故障とか、はては電車が止まってしまわないかとか・・・ 心配しはじめるときりがありませんので、新しい話題や分野のお仕事を引き受ける場合には、1週間前ぐらいまでに徹底勉強し、あとは資料に基づいて単語を頭に入れ、余裕を持って仕事に望むようにしています。 それでも、当日「終了」となるまでは、気が抜けません。2日、3日とある場合は、特に初日の朝が緊張の極致です。それで滞りなく進むうちに徐々に安心し、パートナーの通訳者とともにささやかな達成感のなかで幸福感(ハイな感じ)にも浸ることができますが、次の仕事が来たらサッと頭を切り替えてまた緊張です。 そういった緊張感と安堵感の波に乗りつつ、好奇心と前向きさを失わずにいれば楽しいです。』 |
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Q7.自宅での仕事の仕方について教えてもらえますか? 『帰宅したら次の会議の資料が届いていることが多いので、まずは開封したり添付書類をチェックして返事が必要なものはします。1ヶ月以上先のものはペンディングの棚にまず入れておいて、勉強が必要な書類から、やっていきます。 関係ありそうなHPを日英両方で読んで単語を拾っていきます。エクセルで単語リストを作り、最初は、どうしよう、分からない!とパニックになっても、とりあえず2,3日、それを作った後、寝ます。そうするうちに記憶の中にだんだんと安定的に入ってくるのです。 一読して分からなかった資料が頭に入ってくるようになったりします。そういう流れを作っていくのは緊張しますが、少しずつでもわかってきた時の嬉しさはかけがえのないものです その他、エージェントとの交通費の精算だとか報告、経費申告のための領収書の整理とか、いろいろな雑務もフリーの仕事で発生します。だいたい21時過ぎぐらいとか、仕事が入っていない平日にゆっくりやります。』 Q8.今後は、どのような仕事を手がけていきたいですか? 『今後は家族が増えることもあり、自分が死んだ後ぐらいのスパンで考えて、どんな科学技術、生活や社会制度になっていくのかという事に興味が向いています。大きな視点から見て、どんな業界も仕事も、直接・間接的に、全体として人類や社会が前進するのに貢献していると考えています。 今後も、ご縁のある仕事をこつこつとこなしていく事に変わりはありません。』 Q9.語学の勉強で、気をつけているところはどのようなところですか? またどのようにすれば、上達しますか? 『語学の勉強というよりも通訳として心がけている事で言いますと、自分の訳出したものが、たとえ辞書的には正確であっても、聞き手に分かりやすく伝わっているかどうかを常に気にします。字幕でも、同通でも、限られた情報枠の中のなかでは優先順位付けが必要になります。 話し手が何を伝えたいのか、聞き手が何を得たいのか、なるべく情報入手したり、その場の雰囲気で掴んだり、場合によっては、直接お尋ねします。 講演者に対して、「今日の講演でのキー・メッセージは?」とお尋ねすると、講演者も事前の頭のリフレッシュになって、気持ちが新たになる場合もあり、単に通訳者が質問攻めにするというよりも、本番を前にして互いにコンディションを整える意味合いがあります。 この日のために長い準備を重ね、自分の名前でキャリアを賭けて臨んでいる講演者と、出来る限りの準備をして緊張の中で臨んでいる黒子の通訳者のあいだで、お互い顔を見た上で信頼関係を築くことも大事なことです。 ネット時代なのでリサーチもある程度できるようになりましたし、事前にクライアントにお伺いできる場合はお聞きしますが、この「このような場合に、どこを優先して伝えるか」という部分では、もう経験値がものを言うことは間違いありません。これまでいっしょに組ませていただいた、場数を踏まれた先輩通訳の方に、常に敬服し、刺激を受けるのもこの部分です。 語学の勉強でも通訳翻訳業も同じだと思いますが、やはり日ごろからの幅広い読書や、色んな雑誌とかニュースの見出しを眺めておき「へえ、こういう世界があるのか」と間口を広げていくことが大事と思います。 そして専門的な本、ノンフィクションを両方の言語で沢山読むべきですね。やっぱり一冊、本を読んだら興味の持ち方が違います。 語学そのものは一旦置いておいて「こういうテーマをやりたいし伝えたいから学ぶ」というものがあれば早く上達できるものだと思います。 英語でブログを書こうとか、好きな人(最近で言えば人気のオバマ大統領とかでも)のメッセージを原文で理解したいとか、小さなことでいいと思います 『何のために学ぶか』アウトプット先を見つけることが鍵だと思います』 Q9.通訳家を目指す方へのアドバイスをお願いします。 『まず逐次通訳だから楽というわけではありません。情報量の多い講演や会議では、ドンドン情報をアウトプットできる同通がかえって楽な場合もあります。 逐次通訳は、静寂の中、今はバイリンガルかつ、その道の専門家も多い中で「私の訳し終わりを待っている」というプレッシャーにさらされるのも緊張を強いられます。 同時・逐次というものを上下で考えず、徐々にずらしながら、筋肉をストレッチしていくような感覚で、少し違ったスキルを身につけるような感覚で取り組まれてはどうでしょうか。 最近では時間が足りない会議の中、クライアントも、「逐次で」といって雇ってくれたものの、急に「ここは同時“的”な感じで手早く・・」という場面も無いとはいえません。 もちろん同時通訳は複数名で対応しなければならず、1名体制では基本的にNGです、そのことをエージェントを通して報告し、次回から改善を求めるのは全く適切なことです。 ただ「(体制の問題でなく)スキル的に逐次のみしか遂行できない」という制限がある通訳者は、時間が有効に使えないために敬遠されることもありますので、安定した同通スキルはフリーランスでも社内でも、必須で身に付けたいスキルといえます。 英語のスピーチなどが入ったCDを音声のアウトとインが両方あるカセットデッキでかけながら、自分の同通訳をテープ録音するというのが一番勉強になりましたのでおすすめです。 今は色々な英語教材や音声がネットで簡単に入手できる時代ですから、自宅でどんどん練習できると思います。 また、好きな分野や、好きな人の書いた本やウェブサイトを日・英両方でたくさん読んでおくのもいいことです。好きな分野をもてれば、エージェントも依頼しやすいですし、自分も積み重ねになって楽しいのではないでしょうか』 ありがとうございます。 今回の内容は、通訳翻訳者としてだけではなく、仕事を持つ人その仕事にプロとして臨む人にとって、心構えや準備という面で大変参考になる内容でした。 特に、通訳という職業は、憧れの職業ではあるけれども、そのとき限り、一発勝負で、非常にプレッシャーの高い仕事であるぶん充実感が高く、誇りを持ってのぞめる仕事だなと感じました。 特に幅広い分野をカバーする、「英語通訳翻訳A子」さんの場合は、準備に終わりがなく、自分の好奇心と仕事への興味を高い次元で組み合わせて楽しみながら仕事をしているという印象を受けました。 今後とも素晴らしい仕事を、期待します。 |